地球ドラマチック:戦場の伝書バト〜知られざる情報戦〜

現代の私たちが街で見かける鳩は、餌をあさり、時には病気を媒介するような、どこにでもいる普通の鳥。しかし第二次世界大戦下のヨーロッパでは全く違う存在でした。彼らの名はウィンキー、GIジョー、エクセターのメアリー、ノルマンディー公爵、そしてオレンジ候ウィリアムなどなど・・・

伝書鳩による通信は第二次世界大戦において非常に大きな意味を持っていました。通信機器が役に立たない時でも重要事項をメモした紙片を託して伝書鳩を空に放てば、友軍に救出を求め、危地を脱することができたのです。伝書鳩は重要な戦力でした。第二次世界大戦に後から参戦したアメリカは、ドイツ軍への大規模な空爆を計画していました。
ところが、対象地域には、3000人のイギリス軍が取り残されていたのです。無線機器は故障、あと数十分で空爆が開始されるという時に、伝書鳩GIジョーが空に放たれました!わずか20分でGIジョーは基地までの80マイルを飛行し、間一髪で作戦開始をストップさせました。のちにGIジョーは鳩として初めて、女王から勲章を受けたのです。

ドイツ軍は情報戦の一環として、伝書鳩に対抗するためハヤブサを投入しました。恐るべき生物兵器の犠牲になる鳩は多数出ましたが、その活躍はとどまることを知らなかったのです。伝書鳩は、単なる伝達手段としてだけではなく、スパイ活動にも利用されました。ドイツ軍の伝書鳩を捕らえ、情報を撹乱するため偽の文書を付け替えて再び放されることもあったのです。フランス国内でレジスタンス活動を続ける活動家たちと情報をやりとりする秘密任務は命がけで、わずか10%の生還率だったと言われています。
欧州における第二次世界大戦を終息させたノルマンディー上陸作戦の成功にも伝書鳩の存在は不可欠だったという知られざるエピソードもあります。

鳩の体は長距離飛行に非常に適した構造で、大きく強い心臓、1秒間に10回羽ばたき続ける持久力をもたらす大胸筋が備わっています。また、最長3000キロを超える距離からでも自分の住む小屋に戻ることができるのです。動物行動科学者の研究では、鳩は地形を覚える記憶力、太陽による方角感覚に加え、地球の地軸から発する磁場を感知して帰巣することが分かりました。